「根管治療って成功率どれくらいなの?」
「治したのにまた痛くなることもあるの?」
これはよく聞かれる質問ですね。
歯科医師の説明にもかなりブレが出る内容だと思っています。
患者さんが気になるポイントのひとつが、根管治療(歯の神経の治療)の“成功率”です。
基準はとてもさまざまですので、一概にこれ!とは言えませんが、たまにはこういう内容も良いですかね笑。
できる限り噛み砕いてまとめてみます。
少し難しい話なので良く分かんない時はコメントください。
根管治療の“成功”とは?
そもそも根管治療で「成功」とは何でしょう。
根管治療の成功は、大きく2つの要素で判断されます。
- 臨床症状(痛み・腫れ・噛んだ時の違和感)
- X線(レントゲン)での病変の改善
一概にこれ!と決定づけられるものではないです。
また何年間のデータなのかはそのデータごとに違うので、「何年間その歯が持つ」というわけではなく、この研究のこの期間での評価として成功・失敗みたいな形なのでいわゆる生存率みたいなものははっきりと定義されていないことにも注目したいですね。
半年〜1年くらいで評価していくものだと思っています。(論文は最低2年以上ですが)すぐ「治りましたか?」と言われてもわからないが故にお互い理解に苦労するなという印象です。
ですので、データというものを示すことが必要になるのかなと思い、私は説明することにしています。
● Strindberg の成功基準(1956年)
- Success(成功):症状なく、X線(レントゲン)で病変が消失
- Failure(失敗):症状あり、または病変が増大
- Uncertain(不確実):症状はないが画像で判断しにくい
数々の論文で使われてきた基準ですが、「症状なく病変が消える」いわゆるX線(レントゲン)に病変が写らないという基準なので「厳しすぎる基準」として知られています。
● PAI(Periapical Index)とは?(1986年)
PAIは、レントゲンで見える「根の先の影(病変)」を1〜5の5段階で評価する方法です
- 1:正常な根尖周囲組織
- 2:脱灰のない骨構造の小さな変化
- 3:いくつかのびまん性脱灰による骨構造の変化
- 4:明瞭なX線透過像を示す根尖性周囲炎
- 5:悪化する特徴を伴う重度の根尖性歯周炎
治療後のPAIが1〜2まで改善していれば「成功」と判定されます。
スコア3以上は「疾患」を示す指標として用いられることが多い。
● AAE(米国歯内療法学会)の判定基準(2005年)
最新の考え方では、歯が機能しているかどうかも重視されます。
米国歯内療法学会が既存の基準をレビューし、まとめて新たな基準を定義しました。
- healed:完全治癒、症状なし
- healing:治癒途中だが経過良好
- non-healed:改善せず、症状あり
- functional:完全治癒ではないが機能している
「完全にX線で病変が消えなくても、問題なく噛めていればOK」という寛容な基準です。
より臨床的というか、機能してればOKってことですね。
基準のあれこれ
Strindbergの判定基準での「success」や、PAIスコア2以下のみを治癒と定義するような、原則的にX線画像所見で透過像を消失を必須とする判定基準
→「strict criteria : 厳格な基準」
AAEで定義されている「healed」や「healing」を含めて成功と判定するような、術後のX線画像所見の透過像をある程度許容する判定基準
→「loose criteria : 寛容な基準」
このように、基準も厳しく見るか寛容に見るかで変わってきます。
X線での病変が治ることも大切ですが、実際の生活の中では噛めればいいとそう思いませんか?
今よく言われている下記の基準は寛容な基準で、いわば生活で普通に症状なく使えていればOKと考えています。
初回根管治療(initial treatment)の成功率
寛容な基準を持って研究を総合すると、初回治療の成功率は以下の通りです。
※基本的なプロコトル(ラバーダム等)を守った場合
| 歯の状態 | 成功率 |
|---|---|
| 生活歯(神経が生きている) | 90%以上 |
| 感染根管(神経が死んでいる)・病変なし | 約90% |
| 感染根管+病変あり | 約80% |
病変(レントゲンの影)が大きいほど、成功率はやや下がる傾向にあります。
再根管治療(retreatment)の成功率
過去に根管治療した歯をもう一度治す場合です。
※基本的なプロコトル(ラバーダム等)を守った場合
| 歯の状態 | 成功率 |
|---|---|
| 病変なし | 約90% |
| 病変あり | 約80% |
| 病変があり、根尖部形態異常がみられる | 約40〜60% |
一度治療した歯は、複雑化していることが多く、初回より成功率は下がります。
特に根尖部の破壊や吸収といった根の先が元々の形から逸脱していると成功率は大きく下がると言われています。
成功率に影響を与える主な要因
様々な要因によって成功率は左右されます。
とても難しいので、軽く流してください。笑
術前因子
- 術前にレントゲンで病変が大きいと成功率は下がる(影響ないというデータもあるみたい)
- 生活歯のほうが予後は良い(影響ないというデータもあるみたい)
- 元の根尖部形態が維持されていない場合、治療は難しくなる
- 初めて根管治療する歯の方が再根管治療の歯より成功率が高い
術中因子
- ラバーダム防湿>簡易防湿
- 術者の経験と技術
- 病変が存在する場合 根充終末が2mm以内>根尖2mm以上アンダー>根尖オーバー
術後因子
- 治療後に被せ物をしていない歯は生存率が低くなる
- 歯冠修復の質が良い方が根管治療の成功率が高い
歯根端切除術(外科的歯内療法)の成功率
根管治療だけで治らない場合に行う「根の先を切る手術」です。
いわば奥の手であり、その治療を行なっていない病院もあると思います。
| 治療法 | 成功率 |
|---|---|
| 従来法(サージェリー) | 約60〜70% |
| マイクロサージェリー(顕微鏡+MTA) | 90%前後 |
現代ではマイクロスコープとMTAの使用により、外科の成功率は飛躍的に向上しています。
まとめ
教科書的な結論として、根管治療は適切に行えばとても成功率が高い治療です。
- 初回治療:80〜95%
- 再治療:40〜90%
- 外科処置:90%近く
ただし、このデータ本音をいうとどうなんだろうと考えています。適切って果たして何?
成功には術者の技術と環境(ラバーダム、器材、時間、滅菌)が大きく影響します。
特に術者の技術はかなり大きいです。そのくらい、根管治療は難しいのです。
あくまでデータなので参考程度に。笑
これ読んだ一般の方にわかって欲しいこと
大変難しい話だったので、理解できなかった方がいたら申し訳ないです。
この話で大切になってくるのが、ラバーダムの有無です。
ラバーダムというものが何なのかここでは割愛しますが、
ラバーダムとは根管治療の成功率を上げるために必要な要素です。少し調べればわかります。
日本の保険医療制度内で根管治療をラバーダムをして治療をすればほぼ赤字だと思います。
そのくらい日本での根管治療の位置付けは低く、真面目に丁寧にやればやるほど利益のない治療であることは歯科界では共通認識としてあります。
私が皆さんに伝えたいことは
「ラバーダムをしている病院は良い病院、してない病院は悪い病院」そう思ってほしくないということです。
自分の医院の経営を考えてやむを得ずそういう選択をしている歯科医院があることを知って欲しいです。良い治療を目指した結果、スタッフに給料が払えない。これは本末転倒です。
しっかりとした根管治療を受けたいなら次の二択しかありません。
・自費で根管治療を行なっているところを探す
・保険でラバーダムをやっているごく少数の歯科医院を探す
ぜひ参考にしていただければ幸いです。
あとがき
いかがだったでしょうか?
たまにはこういうデータみたいな話を載せても良いかなと思いました。
自分の体を守るためには知識が必要です。そういう意味での勉強ならとても良いと思います。
しかし、目の前で診てくれる先生に対して「ネットにはこう載ってた」と知識を押し付けるのいかがなものかと思います。
皆さんの人生の一助になれば幸いです。
誰に向けて書いたのかよくわからなくなったな。笑

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