「歯周病は歯磨きができていないから悪くなる」
多くの方が、そう思っているのではないでしょうか。
もちろん、歯周病のきっかけはプラーク(細菌)です。
しかし実は、歯周病の進行は“磨き残しの量”だけでは説明できないことが、ある有名な研究によって明らかになっています。
それがスリランカスタディと呼ばれる研究です。
専門的な話ではありますが、最後まで読んでいただけると幸いです。
スリランカスタディとはどんな研究?
スリランカスタディは、歯周病研究の中でも非常に有名な長期観察研究です。
この研究では、スリランカの茶農園で働く成人男性480人を対象にしたものです。
- ほとんどセルフケア(歯磨き)をする習慣がない
- 歯科治療もほぼ受けていない
- 生活環境や食事内容がほぼ同じ
という、歯周病にとって非常に不利な条件の集団を、15年間にわたって追跡調査しました。
つまり、
「全員がほぼ同じくらい歯を磨いていない」
「全員が同じようにプラークが多い」
「睡眠時間や食事といった生活習慣も大まかには一緒」
という、歯周病の原因を調べるには理想的とも言える条件だったのです。
読んでいる皆さん、直感的に
「全員がもれなく重度の歯周病になった」
と思われるかもしれません。
だって全く歯磨きしないのですから、汚れがたくさんついてそうですよね。
しかし、実際の結果は全く違いました。
歯周病の進行は3つのタイプに分かれた
ほとんど進行しなかった人(約11%)
歯磨きをほとんどしていないにもかかわらず、歯周病がほぼ進行しなかったグループです。
ゆっくり進行した人(約80%)
多くの人がこのグループで、年齢とともに少しずつ歯周病が進行していきました。
急速に悪化した人(約8%)
同じ環境、同じ清掃状態なのに、短期間で重度の歯周病へ進行した人たちです。
なぜ同じ条件なのに結果が違ったのか?
この研究が歯周病学に与えた最大のインパクトは、
歯周病の進行は、細菌の量だけでは決まらない
という事実でした。
だって歯磨きできてないというのは理由なら、全員重度な歯周病になるはずです。
歯周病の重症化には、
- 細菌(プラーク)
- それに対する体の炎症反応
- 免疫の強さや反応の仕方(体質)
が大きく関係しています。
つまり、歯周病で実際に歯ぐきや骨を壊しているのは、
細菌そのものではなく、細菌に反応した「体の免疫反応」なのです。
スリランカスタディからわかること
この研究から、以前は「どれだけプラークがあるか」が重視されていましたが、現在では、
- どれだけ炎症が起きているか
- その人がどの程度リスクを持っているか
- 再発しやすい体質かどうか
といったリスク評価が非常に重要とされています。
後天的な生活習慣や全身疾患に加え、先天的な歯周病のリスクファクターが影響を及ぼしており
休止期、急性期を行ったり来たりしているという
「ランダムバースト理論(Socranskyら:1984年提唱)」が提唱されています。
簡単にいうと、
さまざまな要因が影響していま全く歯周病がなくても急に歯周病が進行する可能性があるから、定期的なメンテナンスってとっても大切だよね
ってことですね!
大前提、歯みがきはとても大切!
これはあくまで「歯磨きしなくていい」なんてことはまったく言っておりません。
プラークや喫煙、糖尿病など歯周病に影響する因子はたくさんあります。
今回の話はあくまで
「その人自身の体質によって歯周病の進行に差がある」という話です。
歯周病に影響を及ぼすものについてもまたどこかでまとめますね。
この研究から患者さんに伝えたいこと
スリランカスタディからわかる最も大切なことは、
「歯周病は後天的な努力不足だけで起こる病気ではない」
ということです。
ひどい歯周病になっていて、落ち込んでいる方は元々なりやすい人かもしれません。
自分を責めすぎず、要因と考えられるものを一つ一つ潰していくしかないです。
改めてになりますが重要なのは、
「現在の健康は将来の健康を保証するもではない」
と認識しておくことです。
今健康であってもどこでバランスが壊れ、歯周病が発症するかわからないため
日頃のメンテナンス・歯磨きの技術の向上は必須になってくるでしょう。
まとめ:歯周病がひどくなる本当の原因
- 歯周病は細菌だけでは説明できない
- 進行スピードには大きな個人差がある
- 炎症反応や体質が重症化のカギになる
- 早期発見と継続管理が最も重要
歯周病は、正しい知識を身につけることが大切です。
歯みがき技術の向上と定期的な歯科医院でのチェック・メンテナンスは非常に重要ですので、
気になる症状がある方は、ぜひ一度、歯科医院で相談してみてください。

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