なぜ丁寧に治すほど赤字になるのか|保険治療のリアルを解説してみる

歯科医師の本音

保険診療は、誰もが平等に医療を受けられるようにつくられた、とても大切な仕組みです。しかしその一方で、患者さんが思っている以上に「できること」に制限がある治療でもあります。

この点のギャップを患者さんが理解する必要はないのですが、
理解はして欲しいなと思うことは多々あります。

歯科医としては「もっと丁寧に治したい」「もっと時間をかけたい」と思っていても、保険のルールではどうしても難しい場面があるのが現実です。

ここでは、歯科医の立場から、保険治療のリアルをやさしくお伝えします。


保険治療は“全国どこでも同じ治療を同じ料金で受けられる”仕組み

保険診療は、地域や医院ごとに治療費が変わらないよう、すべての治療に点数(料金)が細かく決められています。これはとても平等な仕組みです。

しかしその一方で、治療の質や経験年数に関わらず、同じ治療なら同じ点数になります。

  • 経験30年の歯科医師でも
  • 新人の歯科医師でも
  • 最新設備が揃った医院でも
  • 古い設備の医院でも

治療の質・時間・精度に関係なく、料金は同じになります。

歯科治療は本来、丁寧に行うほど時間がかかり、結果が良くなる治療です。
ベテランの先生、人気の先生ほど治療技術が高くなるし、差が出るのは皆さんもわかる
しかし保険制度では、その“質”に料金が反映されません。

そのため歯科医としては「もっと丁寧にしたい」という気持ちと、制度上の制約がぶつかる場面が生まれやすくなります。


「もっと丁寧に治したい」ができない

その代表的な例が根管治療(神経の治療)です。

根管治療は、複雑で繊細な工程が多く、時間をかけて丁寧に行うほど成功率が上がる治療です。

材料や器具に関してもこだわればこだわるほど、原価の高い材料になります。

しかし保険点数は非常に低いため、長い時間をかければかけるほど医院側の負担が大きくなります。材料に関しても、「保険で使えない材料」だとそもそも使えません。
もっといいものがあるのに、、、私たちもとても辛い気持ちになるのです。

もちろん「保険だから手を抜く」ということではありません。制度の中でできる限り丁寧に行っています。ただ、理想の治療と保険制度の現実が一致しないことがあるのは事実です。


歯科医院の経営はボランティアではない

少し現実的なお話になりますが、歯科医院が長く続くためには、適切な利益を出す必要があります。

利益というと抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、それはスタッフの給料、設備投資、安全な環境づくりなど、すべて患者さんに還元されるものです。

歯科医院が健全に運営されてこそ、患者さんが安心して通える環境が保たれます。


自費治療は「もっとも良い治療」を受ける方法

自費治療というと、「高い」「贅沢」というイメージがあるかもしれません。しかし自費治療の本質は、より良い結果を出すための選択肢であるという点にあります。

自費治療では、保険では認められていない材料や工程を使い、しっかりと時間をかけて治療を行うことができます。

  • 精度の高い詰め物・被せ物
  • 再発リスクを下げる工程の追加
  • マイクロスコープを使った治療
  • 高品質な接着材の使用
  • 一口腔単位での治療計画

自費治療の価格が高くなるのは材料費が高いからではなく、時間と工程と精度を確保しているからです。

保険が悪いわけでも、自費が絶対に必要なわけでもありません。
どちらにも役割があり、患者さんにとって最適な選択肢を一緒に考えることが大切です。


まとめ

保険診療は、誰もが受けられる大切な医療です。ただし、その仕組み上、治療時間や材料、工程に制限があることは避けられません。

制度の背景を少し知っていただくだけで、治療の見え方や選択肢が大きく変わります。

あなたの歯と健康を長く守るために、保険と自費のそれぞれの良さを生かしながら、
適切な治療を選んでいきましょう。

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